開発の背景
従来より、崩壊が発生した箇所では地下水の湧出やパイピングホール(写真1)が確認されており、このことから崩壊の発生する危険箇所は地下水が集中しやすい地下構造の斜面であり、崩壊はこのような場所に豪雨時に地下水が過剰に供給されることを原因として発生すると考えられてきました。
山地において簡単に地下水の集中する場所を特定できる探査の手法があれば、崩壊の発生箇所も特定できますが、ボーリングや電気探査といった従来の手法はいずれも高額な費用と多大な労力および多くの時間を必要とするため、危険箇所の探査に広く適用することは現実的には不可能な状況でした。
およそ10年前、これら従来の手法よりも簡便かつ安価に地下水の集中する場所を特定することを目的として、独立行政法人森林総合研究所、京都大学および鳥取大学の研究者の方々が「地下流水音探査」という新しい手法の開発に取り組んでいました。
「地下流水音探査」とは、地下を流れる水の流れ(地下水流)に含まれる気泡が地下水の移動に伴って破裂する際に生じる「ポコポコ」・「ボコボコ」という曝気音の強弱から、地下水が集中して流れている位置を特定する手法です。
まず、本手法を用いて地表から地下流水音を検知し、地下水が集中する場所を非破壊で特定できるかを検討したところ、湧水点近傍では地下流水音が強く、場所の特定に有効であることが確認されました(図1)。
次に、本手法が崩壊箇所の予測に適用できるかを検証するため、実際の山地斜面において地下水が集中する場所を探索し、崩壊発生場所の予測を試みました。現地踏査により、周囲の斜面に比較して地下流水音が大きく、地下水が集中していると考えられる場所を抽出しました。この調査の後、この斜面が台風にともなう豪雨にみまわれ、事前に特定した危険箇所が実際に崩壊したことで、予測においても本手法の有効性を実証されました(図2)。
次に多くの崩壊地で地下流水音を測定した結果、図3に示すように周囲に比べ崩壊地の周辺では、地下流水音が大きいことが明らかにされました。
一方で、本手法の普及にあたり克服すべき問題点は、流水音の判定に熟練が必要なことでした。
そこで上記した森林総合研究所を中心とした研究者の方々より、弊社に地下流水音の判定手法に改良を加え、特別な技術が無くても誰でも同じ精度で地下水の集中する場所を特定できる「地下流水音探査装置」の開発依頼があり、共同で開発に着手しました。
本装置は平成25年の夏に販売を開始して以来、徐々に土砂災害対策の現場でも使用されつつあり、近年頻発している土砂災害の未然防止に大いに貢献するものと期待されています。
災害防止という目的のみならず、地下水を原因として発生するさまざまな問題解決のために本装置を利活用し、役立てていただけますと幸いです。